4月27日(土)、河和田コミュニティセンター2階のキッチンルームで第13回薬草講座を実施し、9名の方がご参加下さいました。 今回は前回テーマの「ギシギシ」と同属植物である「スイバ」。河和田でもごく普通に見られる植物です。まず最初に、スイバの根(2024年4月11日河和田地区内で採取)を刻んで2つに分け、一方を電子レンジで600W 3分間加熱、もう一方は加熱処理なしで、それぞれ乾燥させたものの色を観察しました。加熱処理なしのものが薄く黄色みを帯びているのに対し、電子レンジ処理されたものはより赤みが強いのが分かります。この色の違いの要因は、根に含有される酵素によると考えられます。電子レンジ処理すると酵素は失活、即ち働くことができなくなります。
色素が植物体内中にある時は、グルコースやラムノースなどの糖と結合していることが多いです。ある種の酵素は、この色素と糖との結合を切る役割を果たします。前述のとおり、電子レンジ処理されると酵素が失活し(酵素の作用がなくなることです)、色素と糖は結合したままです。スイバの場合は、色素と糖が結合している方が、赤みが残りました。
植物色素と酵素の働きについて、以下の論文では槐(エンジュ)の花蕾を例に詳述されています。槐の花蕾が黄色原料とされる際は、伝統的に加熱処理がされます。この処理で酵素は失活します。色素には糖が結合しており、この形になることで色素が壊れにくい、即ち変色しにくい、ということが科学的に示されています。
Zhang, X., Cardon, D., Cabrera, J.L. et al. The role of glycosides in the light-stabilization of 3-hydroxyflavone (flavonol) dyes as revealed by HPLC. Microchim Acta 169, 327–334 (2010). https://doi.org/10.1007/s00604-010-0361-x
でもどの植物でも酵素を失活させた方が赤みが残る、というわけではありません。植物によっては、酵素が働いて糖が切り離された方が美しい色を示すものもあります。そのうちの1つが茜(アカネ)の根です。
Zhang, X., Cardon, D., Cabrera, J.L. et al. The role of glycosides in the light-stabilization of 3-hydroxyflavone (flavonol) dyes as revealed by HPLC. Microchim Acta 169, 327–334 (2010). https://doi.org/10.1007/s00604-010-0361-x
乾燥させたスイバを水から煮だした抽出液は赤褐色でしたが、これにミョウバンを混ぜると鮮やかな黄色に。絹布を15分ほどつけておくと、鮮やかな黄色い布に染まりました。
乾燥させたスイバ。右上;自然乾燥、左下;電子レンジで処理後、室内で乾燥
約10分加熱して色素を抽出
根を取り出し、抽出液にミョウバンを加えた後。抽出液の色が明るさを増した。これに絹布(投入前約30分間水に浸漬)を入れ、約10分間、沸騰しない程度に加熱。
講座の様子
第13回の今回は、スペシャルゲストとして中国の重慶中薬研究院の吉光先生に参加していただきました。薬草講座講師の嶋田先生の先輩で、中国で薬草の研究をされています。薬草講座の中でも所々でコメント頂き、薬草についてより深く知る貴重な機会となりました。 また、笑壺研の小越先生が著者の一人である教科書「DX時代の観光と社会」の紹介がありました。こちらなんと、第6章 「伝統産業と観光」が鯖江市河和田地区をテーマとしており、薬草講座についても取り上げられています!河和田の観光や観光とDXの関係について興味があれば、ぜひご購入下さい。
吉光先生
本を紹介する小越先生
今回も講座中に、参加者からお土産をいただきました。 乾燥ナツメと緑茶は吉光先生からのお土産です。緑茶は中国式に、カップに茶葉を入れてお湯を注ぎ、茶葉が沈んできたら飲み頃とのこと。棗は新疆ウイグル自治区の産で、日本で見られる棗より、ずっと大きなものでした。 栗羊羹は吉光先生や小越先生の地元・石川県小松市で有名なものだそうです。緑茶ととても合いました。 また、近郊で栽培されたという菊芋をいただきました。生のままスライスしていただくと触感がシャクシャクしていて、参加者からは「甘酢漬けにするとおいしそう」といったアイデアが浮かんでいました。参加者から伺った食べ方は、きんぴら、乾燥粉末にしてお茶とする、などでした。
今回の講座のお供
中国の緑茶
カップに直接茶葉を入れ、お湯を注ぎました
乾燥棗と栗羊羹
スライスされた菊芋
次回は5月25日(土曜日)、午後1時半からです。今回の講座を受け、色素と布を結び付け、かつ色味を変える媒染剤について焦点をあててみます。今回は電子レンジ処理したスイバの根を使いましたが、自然乾燥された根も気になりますね。次回は両者を色素材料として使います。 ご興味のある方は staff@etubolab.org までご連絡ください。